2012年1月21日土曜日

兵は詭道なり ~あらゆる状況を想像する



大相撲で、把瑠都が初優勝を決めました。

が、12日目の取組に対する観客やメディアの反応に私は愕然としました。

私はニュース映像でこの一番をみて、

あの巨体で軽やかに動き、体を裁いてはたき込んだ様子に、うまいなぁ~と感じていました。

本人も「自然に体が動いた」と言っていたので、これゃホンモノだな、と思っていました。

ところがその一番の後、客席からは怒号が飛び交っていたそうです。


把瑠都、12連勝初V王手も変化に「帰れ!」…初場所12日目

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120119-00000256-sph-spo

把瑠都、注文相撲にヤジ「帰れ!」それでも自己最高12連勝
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120120-00000021-dal-spo


私はこの記事を読んで、

なんじゃそれゃ~!!

と呆れてしまいました。

相撲はガチンコ勝負です。

ルールに則って、あらゆる手を駆使して勝てばそれでいいのです。

それを、正々堂々と戦っていないから卑怯だとか、あっけなさすぎとかいうのは全く当たっていません。


また正々堂々と渡り合う姿が望ましいということは、八百長試合にも繋がります。

最初に激しく当たって、がっちり組み合って押しあいへし合いするのが相撲らしいということであれば、

そのように取り組みんでみせれば、ホンモノの試合らしく見えるということになり、

まさにかつて八百長で問題になった取り組みそのものです。


もし相撲において、当たりを交わしたり、フェイントを入れるのがいけないのであれば、

相撲のあらゆるその手の技は批判されるべきだし、

サッカー、バレーボール、ボクシングにしても、フェイントは卑怯ということになり、まったくの興ざめになってしまいます。


私はこのニュース記事を見て、本当にガッカリしました。日本人の嫌な所をみてしまったようで。

ひとつには人種差別もあるのでしょう。

日本人横綱のいない今、期待をかける稀勢の里に、

外国人があっけなく黒星をつけたことに不満があったこともあるのではないでしょうか。


ガチンコの戦いに、正々堂々としていなくてはいけないなどといったヘンな精神論を持ち込むのはまったくナンセンスです。

孫氏は、

兵は詭道なり

と述べています。

(金谷 治 (翻訳) 新訂 孫子 (岩波文庫))

戦いにおいて、相手の意表を突くのが上策だと述べています。

(もっとも孫氏は、戦う事より、如何に外交などで戦わないで済ますかが最上の策であることを説いていますが。)


ガチンコの戦いであれば、ルールの範囲内で、想像力を巡らし、

あらゆる手を尽くして勝つことを考える
というのがあるべき姿だと私は思うのです。


潔くなくてはいけない、とかいうヘンな精神論は、旧日本軍のおろかな行為を思い出させます。

「精神は物量に勝る」

と十字砲火の中、意味のない突撃を幾度となく繰り返す旧日本兵はまったく愚の骨頂でありました。

米軍の指揮官は後に、日本兵の将校は頭がおかしいのか、と語ったといいます。

このような状況でも、相手の裏をかくような、あらゆる作戦を考える必要があったのではと思うのです。(降伏も含めて)


そしてこのヘンな精神論は、別の形で現代にも引き継がれているように感じます。

原子力発電所は安全である、という思い込みを自ら、そして国民に繰り返し流すことで、

想定されるあらゆる危険を考えることをしなかったという事態
です。

自然からの攻撃に対するあらゆるパターンに想像をめぐらすことなく、

安全だから事故は起きない、という発想のもとに胡坐をかいていたのが今回の事故だと思います。


私は当ブログでも取り上げたことのある武田邦彦さんの原発に関する本を読んだのですが、

ご本人自身、日本の原子力政策に関わっていただけあって、その内情は嘆かわしいものでした。



エネルギーと原発のウソをすべて話そう




話しを戻して、

戦いの攻撃においても、防御においても、あらゆる状況を想像し、それを実行し、また対策をとるのが真のプロと言えるでしょう。

それにも関わらず、戦いにおいては、激しく渡り合うものだけしか攻撃と認めず、

守りにおいては、大丈夫であるということを前提にして、起こりうる状況を検討しないというのは、

プロフェッショナルとは到底呼べないなと感じます。


たとえば、いまは受験シーズンなので、試験のテクニックに関していうなら、

正々堂々と戦わなければならないというひとは、

問題は与えられた通り、1番から順番に解いていって、

難しい問題ではちゃんと考えなければならないということになります。

でもこれは想像力のかけらもない、まったくナンセンスな受験法です。


受験でもスポーツと同じで、ルールに則っていれば、何をやってもいいのです。

そして結果が与えられた時間内に高得点をとることであるなら、

その目的に向かってあらゆる手を尽くすべきです。

その為に考えられることとして最も有効な事は、

難しい問題は後回しにする

ということです。

時間内に解ける問題があるにもかかわらず、難しい問題でストップしてしまって、

そちらに手が回らないというのはもったいないことです。

また英語や国語などの長文問題も、与えられた通り最初に文を読んでから設問にあたるのではなく、

先に設問を読んで何を問われるかを心に刻んでから文章を読む方が断然効率的です。

長文を問題意識をもって読めるからです。


今回の把瑠都の記事からは、色んなことを考えさせられました。

私はたいてい批判したりする文章は書かないのですが、

記事の内容があまりに情けなかったので、取り上げることにしました。


人の言う事を鵜呑みにせず、少しキョリを考えてみる。

色々な現象を自らの鏡として自らを高めていく材料にしていきたいと思った一件でありました。



おしまい




参考:

把瑠都、12連勝初V王手も変化に「帰れ!」…初場所12日目
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120119-00000256-sph-spo

把瑠都、注文相撲にヤジ「帰れ!」それでも自己最高12連勝
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120120-00000021-dal-spo


アマゾン:

新訂 孫子 (岩波文庫)

エネルギーと原発のウソをすべて話そう



--------------------------------------

以下記事全文

把瑠都、12連勝初V王手も変化に「帰れ!」…初場所12日目
スポーツ報知 1月20日(金)8時2分配信

館内の帰れコールも気にせずニンマリ
 ◆大相撲初場所12日目 ○把瑠都(はたき込み)稀勢の里●(19日・両国国技館) 大関・把瑠都が「帰れコール」を浴びながらも初優勝に王手をかけた。新大関の稀勢の里をはたき込みで破り12連勝。注目の一番での変化に館内からは「帰れコール」が起こる異様な雰囲気となった。結びで横綱・白鵬が大関・日馬富士に送り出され2敗に後退。強烈なヤジを浴びた把瑠都だが、13日目に大関・琴奨菊を倒し、白鵬が大関・琴欧洲に負ければ初優勝が決定する。

 把瑠都の変化に国技館が殺気だった。たった1秒で稀勢の里をはたき込んだ直後。期待の一番のあっけない幕切れに一部の観客が把瑠都へ「帰れコール」を浴びせた。

 東の控えで琴欧洲に水を付けるまで「帰れ!」の怒号が国技館を渦巻いた。極めて異例なヤジに12連勝にも表情は沈む。怒号を振り払うように花道を小走りで支度部屋へ引き揚げた。風呂場に入ると「ヨッシャー」と喜びの雄たけびを上げたが、相撲内容には「ファンの皆さんには見に来てくれたのに申し訳ない」と頭を下げた。

 変化は考えていなかったという。「組むか、捕まえようと思った」。ところが、最後の仕切りで稀勢の里が手を付かない。呼吸が合わない状況に「下半身に力が入った。緊張した」と、いつもより少し下がって手を付いた。軍配が返り「体が勝手に動いた」と両腕で敵の後頭部を押さえつけ、はたき込んだ。正面の中村審判長(元関脇・富士桜)は「呼吸が合わずとっさに動いた」と分析した。

 初優勝がかかった大一番を制したが、後味の悪さは残った。それでも大関昇進後、初の12勝。賜杯と夢の横綱へ大きく近づいた貴重な1勝だ。この日、観戦した横綱審議委員会の鶴田卓彦委員長が「今場所は勢いが違う。このまま優勝すれば来場所は綱取りだ」と話した。鶴田委員長は昨年名古屋で優勝した日馬富士には過去の不安定な成績から翌秋場所は「14勝以上しないと綱取りにはならない」と突きつけたが、把瑠都は先場所まで4場所連続で10勝以上で「日馬富士と違う。今場所、優勝し来場所、13勝の準優勝なら上げてもいい」と断言した。

 横綱への道につながる夢の初優勝。白鵬が2敗に後退し、13日目にも実現する可能性が出てきた。放駒理事長(元大関・魁傑)は「優勝争いは圧倒的に有利」と言った。大関で13日目Vを決めれば1場所15日制が定着した49年5月以降で02年九州の朝青龍以来、4人目になる。「今は勝つイメージしかない」。熱のこもった一番で賜杯を抱き「帰れコール」を拍手に変える。


http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120119-00000256-sph-spo



把瑠都、注文相撲にヤジ「帰れ!」それでも自己最高12連勝
デイリースポーツ 1月20日(金)8時1分配信

 稀勢の里をはたきこみで下した把瑠都(左)=両国国技館(撮影・開出 牧)
 「大相撲初場所12日目」(19日、両国国技館)

 優勝を占う2番がともに立ち合いの変化による決着となり、館内は騒然となった。大関把瑠都は新大関稀勢の里をはたき込んで、自己最高の12連勝とした。横綱白鵬は大関日馬富士に送り出されて2敗目。13日目に把瑠都が大関琴将菊に勝って白鵬が大関琴欧洲に負けると、把瑠都の初優勝が決まる。

 神妙な顔つきで勝ち名乗りを受けた。真っ向勝負を期待していた館内が騒然とする中、把瑠都は小走りで支度部屋に引き揚げた。満面に笑みが広がった。大きな1勝に「ヨッシャー!!」と叫んだ。

 一瞬の決着だった。なかなか土俵に手をつかない相手に、けげんな表情を浮かべた。直後の立ち合い。左に変化し、はたき込んだ。最も声援を集める新大関稀勢の里に、優勝が絶望的となる3敗目を刻んだ。「組みにいこうと思ったけれど、相手がなかなか手をつかず、下半身に力が入っていった。緊張したが迷いはなかった」。突っ込んでくることを察知した勝負勘がさえ渡った。

 自己最高の12連勝。白鵬が敗れ、リードは2差。新年の目標に掲げていた初優勝は、もう目前だ。「あと3日間。(1つも)落としたくはない。いつもなら負けたらどうしよう、というのがあるけれど、勝つイメージしかない」。表情には自信が満ちあふれていた。

 取組後は「帰れ」というヤジも飛んだ。白鵬が敗れた一番も立ち合いの変化。放駒理事長(元大関魁傑)は「大一番が両方ともあれでは、お客さんも興ざめしたところがあるんじゃないか。勝負だから仕方ないが、まともにぶつかって欲しかった」と苦言を呈した。把瑠都も「見に来てくれた人には申し訳ない」と反省した。

 それでも、課題を克服した白星といえる。師匠の尾上親方(元小結濱ノ嶋)は「もう一つ上(横綱)を狙うには、勝負への厳しさが足りない」と指摘していた。勝利への執念を全開させた一番だった。このまま悲願へ一直線だ。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120120-00000021-dal-spo




0 件のコメント: