2009年4月17日金曜日

人間を規定するもの~文化と遺伝子~



NHK教育で毎週やっている

『サイエンスゼロ』

という番組、いまいちパッとしない番組名ながらなかなか渋い内容なので私は毎週録画して見ているのですが、

3月の下旬に放送した

 
シリーズ人の謎に迫る第六回 人間は文化的か動物的か?

はとても面白かったので、今回紹介しようと思います。


毎回異なるゲスト(主に大学教授)が招かれるのですが、今回招かれたのは、





長谷川眞理子さんという方でした。

まず人間のもつ動物的な側面と文化的な側面があらわれるものとして、犯罪が取り上げられました。

下は100万人あたりの殺人犠牲者の多い国のトップ7です。



すべて中南米とアフリカというところがすごいですね。

この統計でいくと日本はどこら辺かというと、、




殺人犠牲者の低い国の下から4っつ目でした。

殺人の件数はそれぞれの国の政治的、社会的な状況によって異なりますが、殺人という現象になにか生物的な共通の特徴があるのでしょうか。

下は、イギリスにおける殺人犯の男女別、年齢別の分布です。



これを見ると、20代男性が突出していることがわかります。

このイギリスの統計に、アメリカのシカゴでの同様の統計を重ねると、、、



なんと分布がピッタリ一致するのです。

(ただし右端の目盛を見てわかるように、シカゴの殺人犯の数はイギリスの30倍ぐらいです)


それでは我が国、日本はどうかというと、、、



やはりグラフは同じ形をしています。

これをユニバーサル・カーブ



と呼ぶそうで、人類に共通する特徴のようです。

生物学的には、多数の精子をもつオスが少数の卵子をもつメスをめぐって争いになるのは必然のことなので、

人間でいえば生殖能力がもっとも旺盛な20代の男性が対人関係において殺人にまで至ってしまうことが多くなるというのは生物学的には理解できることなのだそうです。


しかし先の日本の統計のところで、あれっ?と思った方もあったかと思うのですが、先の統計は日本の1955年のものでした。


それが現在ではどうなっているかというと、、、



なんと女性並みに減っているのです。

私たちは最近殺人が増えたように感じていますが、統計をちゃんと見ると実際は減っているそうです。

社会や経済が安定すると、こういった生物的な特徴も緩和されるのではないかと解説されていました。


このように人間を形成しているのは、生物的な要素文化的な要素があります。

そしてこの生物的な要素(遺伝子)と文化な要素がまたお互いに影響を与えあっているというのです。

それでは遺伝子が文化に影響を与えているというのはどんな場合なのでしょうか。





番組で取り上げられたのが、



新奇探求性」です。

これは新しいことにどんどん挑戦していきたいという欲求で、じつは人間におけるこの特徴は遺伝子によっているのだそうです。


人間の脳内では、



という快感をつかさどる物質が分泌され、これが





において取り込まれることで、爽快感や安心感が生まれます。


しかしドーパミン受容体をつくる遺伝子において、同じパターンの繰り返しが多いと、この受容体の感度が悪くなってしまうそうなのです。



つまり、より大きな刺激がないと満足できない新奇探求性が旺盛ということになるのだそうです。


このドーパミン受容遺伝子の繰り返しの数を日本とアメリカで比較すると、、、



明らかに、アメリカ人に繰り返しの数が多い人がたくさんいるそうです。

ということは、アメリカ人のフロンティア精神というのは、遺伝子に刻まれた特徴といえるかもしれません。

と同時に、常に大きな刺激がないと満足できないというのは、もしかしたら犯罪の多さや、常に戦争をしていないと落ちつかないという気質に影響しているのかもしれないと思うと気の毒でもあります。


今度は逆に、文化が遺伝子に影響を与えたケースを見てみます。



これがもっともよく表れているのが、





牛乳?、、、そうつまり人間が牛乳を消化できる能力です。この能力の獲得は、人間の文化と関係しているのです。

牛乳を消化できない性質を



というそうです。

哺乳類はもともと、小さい頃はお乳を飲んで消化し自らの栄養としていますが、大人になると消化できなくなるものなのだそうです。

しかし一万年ほど前に、西アジアで大人になっても牛乳を消化できる遺伝が突然に発現し、それが牧畜文化のなかでは有利に働いたので、




西アジアを中心に、そのような遺伝子を持つ人がバーっと広がっていったそうなのです。






遺伝子が人間の文化に影響を与え(新奇探求性)、また文化が遺伝子に影響をあたえる(牛乳の消化能力)という相互作用があるのはわかったのですが、

人間の遺伝子レベルでの進化(変化)は数万年単位ものであるのに対して、文化・文明の進化(変化)は産業革命以降、指数関数的に進んでいます。

番組内では、現在の人間の持つ様々なトラブル、精神的なストレスやメタポなどの生活習慣病などは、

人間の遺伝子の変化が文化の変化の速さについていけてないこと由来しているのではないかと指摘されていていて、なかなかいい所ついているなと感じました。


番組の最後では、人間の文化が他の野生種といかにかけ離れているかが紹介されていました。

皆さんも生物の時間などに食物連鎖のピラミッドを見たことがあると思いますが、

草食の哺乳類と肉食の哺乳類の分布は自然界においては以下のようになっているそうです。




この中に、仮に人間の体重を60キロとした場合を当てはめると、




雑食の人間は、だいたい1平方kmの中に1.5人というのが自然の状態らしく、これはアフリカの原住民にあてはまるそうです。







しかし地球上の人間の数はというと、現在、






これを先ほどの表にあてはめると、、、


1キロ平方メートルあたり、45人という突出した数になるそうです。なんという不自然な分布でしょうか。

これを可能にしているのは、化石燃料だそうです。現在人類は、地球に降り注ぐ太陽エネルギーの1.3倍のエネルギーを消費しているそうです。

つまりこれまでに地球が何億年かけて貯金してきたエネルギーを一気に食いつぶしてこの人口を養っているそうなのです。

私はこれを見ていて、少なくとも収入にあわせた適度な支出、つまり太陽から降り注いでいるエネルギーと同じぐらいのエネルギー消費に抑えるというのが一つの目標だろうなと感じました。

マトリックスという映画の中では、人間を支配しているコンピューターのプログラム、エージェントスミスが人間であるモーフィアスに次のように言っていたのを思い出します。

お前ら人間に一番近い生物がなんだかわかるか?
バクテリアだ。ある場所のエネルギーがなくなるまで爆発的に増殖し、食いつくす。

確かに人間は欲にまかせて膨大なエネルギーを消費しており、それが自らの生存環境を悪化させています。

もし人類に高等な思考能力があるなら、より広い視野にたって、このエネルギーの消費構造は変えていかなければならないのだと思います。

いままで何度もガンについては取り上げてきましたが、結局ガンも肉や乳製品といったエネルギーの取り過ぎが原因とみることができます。

自然界においてエネルギーを蓄積しているのは、植物で言えば実や根っこ、つまりこれから成長しようとする部分です。

人体に過剰なエネルギーがためこまれたために、ガンという芽が生じてどんどん増殖していってしまうというのはある意味必然であるように私には感じます。


人間がもっている遺伝子とどんどん進化していく文化・文明との摩擦が人間に様々な弊害をもたらしているというのはとても面白い観点でした。

これは文明を作り出している脳と体全体との摩擦、思考(脳)と感情(ハート)の摩擦、客観と主観の摩擦などとしてもみることができるかもしれません。


いままでは、社会の発達の指標は客観的な物差しとしてさまざまな数字が用いられ、それによって人間が踊らされてきたようなところがあるように思いますが、

これからはその反動で、数字に出来ない人間がもつ主観とか良心といったものに重点がおかれた社会になっていくのかなと思いました。いや、なって欲しいなと思います。



おしまい。



参考:

サイエンスZERO :シリーズ 人の謎に迫る⑥ 人間は文化的か動物的か?
http://www.nhk.or.jp/zero/contents/dsp250.html


長谷川眞理子さんの著作(アマゾン):
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/search-handle-url?%5Fencoding=UTF8&search-type=ss&index=books-jp&field-author=%E9%95%B7%E8%B0%B7%E5%B7%9D%20%E7%9C%9E%E7%90%86%E5%AD%90

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