2009年12月9日水曜日

言語表現と数学的思考 ~ その悟 ~



このシリーズの中で、物を考えるときに「数学的な発想」を利用することの有用性を述べてきましたが、

それではもっとも使える数学的概念は何かと問われれば、私は迷わず


「フラクタル」


と答えるでしょう。

ものを書くとき、何かを考えるときにこのフラクタルはとても応用の効く概念です。

フラクタルとは何なのかを数学的にちゃんと知ろうとしたら、

本当はマンデルブロ集合↓などが描かれる複素数平面などを知っている必要があります。





複素数平面は現在では高校の過程でもまた教えなくなったようで、とても残念なことですが、

複素数平面を知らなくても、フラクタルとは何なのか、十分に知ることが出来ます。

少し興味をもって調べれば、たくさんの本が出ているし、ネットでも簡単に調べることが出来ます。


フラクタルの特徴をあげると二つに絞られるかと思います。

①相似形

②規則とカオスの中間


数学の世界においてフラクタルの概念が本格的に研究され出したのは、ほんの数十年前で、極めて新しい領域になります。

私は大学の一般教養科目で、「力学系の複素解析入門」というのを受けたのですが、その時先生がいっていたのは、

フラクタルやカオスはまだ新しい学問なので、少し脇の方に入っていくと、フィールズ賞級の研究になりますとのことでした。

それほどまだわかっていないことがたくさんある新しい領域なのです。

実はこの授業、はじめこそ「テント写像」など私でも理解できるものでしたが、

次第にわけが分からなくなっていきました。

というのも気がつくと、四面ある黒板全体に宇宙語のような数式がズラズラズラと書かれ、何を意味しているのかまったく理解できないのです。

数学の記号で∴(故に)などは皆さん知っていると思いますが、こんな類の見たことのない記号が延々と続くのです。

どうやら私の周りの理学部数学科みたいな数学オタクの方々は、驚くべきことにみな一様にその板書された数式を理解し、ノートに写していっているのです。

そのとき、同じ大学一年でありながら分野が違うとこれほどまでに差があるものなのだなと痛感したものです。

(この授業の単位は、なんとか大学受験レベルの数学で問題を解くことでぎりぎり単位を貰えましたが、、、)


さて話しが少しそれましたが、このフラクタル図形の発見によって、私たちはそれまで自然を円や直線、放物線などで近似して捉えてきましたが、

自然の多くは実はフラクタル構造なのだということが分かってきたのです。

たとえば、一本の樹を見たとき、一つの枝をぽきんっと折ってみると、その枝の形が樹全体を縮小したような形になっており、

また葉っぱの中の葉脈は樹全体の形と相似形になっており、

その葉を構成している細胞中の遺伝子に、その樹全体の情報が組み込まれています。


このように、

全体が部分の中にあり、部分が全体の中にある


というのがフラクタルの特徴で、自然はフラクタルで描かれていると言われます。

生物の何億年にわたる進化の過程が"樹"形図として樹の形としてあらわせたり、

根がはる様子は地表を流れる川の形に似ており、その形状は私たちの体内を流れる血管が張り巡らされている様子と似ています。


人間に目を移すと、5という数字のフラクタル構造になっています。

手足の指の数が5本で、胴体からはまた5つの突起- 手・足・頭-が出ています。


また風という自然現象を時間軸で見た場合、

ある地域の一時間の間に観測される風の強弱の形と、一か月、一年の間にその地域で吹く風の強弱のグラフが似た形状になるのだそうです。

そう考えると、人間の心臓のある一定時間の鼓動の波形や、ふーっとつく一呼吸、

あるいは手のひら(手相)にその人の一生が凝縮されていると考えるのも、そう突飛なことではないことが分かります。

これらが自然の持つ自己相似形でフラクタル図形のもつ特徴です。


もうひとつのフラクタルの特徴は、「秩序とカオスの中間」というところにあります。

たとえば樹を見てみても、一見規則的に枝が生えているようでありながら、微妙にランダムさが見られます。

また風に関しても、強弱のパターンがまったく規則的ではなく、規則の中に適度なゆらぎがあります。

この自然の風などにみられるランダムさは、1/fゆらぎと呼ばれ、扇風機などに応用されたりしています。

このようにフラクタルは秩序とカオスの中間にあるものです。


私はこのフラクタルという概念を知って以来、身の回りの様々なことをフラクタルに沿って考えることが出来るようになりました。

その一つは文章を書くことに関してです。

」を例に挙げてみましょう。

自分の知らない本が目の前にあったとすると、まずふつうはその本の題名を見ることでしょう。

そして目次を見てみたり、"はじめに"や"あとがき"を読んでみることで、その本がだいたいどんな本なのか理解することが出来ます。

つまり本自体、フラクタル構造になっているのです。

私は人に何かを説明したり、文章でわかりやすく伝えたるときに意識すべきなのは、このフラクタル構造だろうと思います。

人に説明するときに図を用いると有効であるというのも、これに含まれます。

人間は視覚優位であることもありますが、図は一目で説明すべきことがら全体を見渡すことが出来、

人に説明するときにとても有効に作用します。


論文などを読んでいて分かりにくくてイライラするのは、たいてい最後まで読んでやっと言いたいことが分かるものです。

しかし分かりやすい論文は、初めに結論はこういうことです、と提示してあり、

それが具体的にどのような論拠によってそういう結論なのかがわかる文章構成になっていて、

自分がいま読んでいるところが、全体の中のどの部分に位置しているのかが読みながらわかるようになっているのです。

こういう文章はとても安心しながら読めるのです。

しかし、もし人の興味を引こうとしたら、完全に種明かしをしてしまうのでなく、フラクタルにおける規則とカオスの中間の性質を利用して、

結論の提示の仕方も少しぼかして、

えっ、どういうことなんだ?

という気持ちを起こさせるような提示の仕方にするのがいいかもしれません。


しかし分かりやすいのがいいからと結論を先に提示してはいけない場合もあります。

それは推理小説の類ですね。

話しの初めに、「犯人は誰々です」といってから始まるのでは、まったく興ざめですからね(笑)。

でもある意味そんなサスペンス物があったら逆に斬新かもしれませんが。。。

この場合は、分からないことを楽しむためのものなので、最後まで読んでやっとわかるという構成になっていますが、

逆になにかを人に分かりやすく伝えようとしたら、なるべく結論を最初に持ってくるなどして、全体が見渡せるような構成にすべきだと思います。


もうひとつ、このフラクタル構造を利用できるのが勉強法に関してです。

自然はフラクタルであると言われますが、実は人間が心地よい、美しい、楽しいと感じるのも、このフラクタル構造と関わりがあるのです。

考えてみると、身の回りのものがあまりに乱雑すぎたら不快だし、

逆にすべてがあまりにキッチリ整理整頓されていて、例外なく完璧に規則的であるのも落ち着かないものです。

人間もやはり自然の一部であり、自然と同じようにカオスと秩序の中間あたりに心地よさや美、面白さを感じるようなのです。

このことを知っていると自分の勉強法に応用することができるのです。


参考:

フラクタル図形
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%83%A9%E3%82%AF%E3%82%BF%E3%83%AB

マンデルブロ集合
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%B3%E3%83%87%E3%83%AB%E3%83%96%E3%83%AD%E9%9B%86%E5%90%88



1/fゆらぎ
http://ja.wikipedia.org/wiki/1/f%E3%82%86%E3%82%89%E3%81%8E


マンデルブロ集合を扱った彦兵衛のブログ↓

ポアンカレ予想からフラクタル図形へ
http://mshiko.blogspot.com/2009/03/blog-post_20.html

一華開五葉 ≪その弐≫
http://mshiko.blogspot.com/2009/05/blog-post_07.html

0 件のコメント: