2008年8月4日月曜日

菜食主義を考える

-
最近よく帯津良一さん関連の本を読んでます。
帯津さんは東大医学部卒のお医者さんで西洋医学をしっかり学んだ上に、オステパシーや鍼灸、漢方、食事療法なども治療に取り入れ、自ら気功を実践し患者さんに教えているという一風変わった方で、これからの医療の方向を予感させるようなお医者さんです。

以下に栄養士の幕内秀雄さんとの共著の一部、菜食主義に関する部分を引用します。

-------『なぜ「粗食」が体にいいのか』 三笠書房 2004------------------

「菜食主義」のようなことを勧めている人は少なくありません。でも、その人たちは患者さんを見たことがないんです。患者さんが本当に菜食主義なんて始めてしまったら、すごい人は、肉も卵も牛乳も魚も動物性食品は一切食べなくなるんですよ。それほど真剣に信じ込むんです。

(中略)

私たちのところに、よくそういう人が来ます。マクロバイオティック(玄米菜食主義)をやって、玄米ときんぴらごぼうばかり食べて、自分の体のほうまで本当にきんぴらごぼうのようになったひとが。色が黒くなって、げっそりやせているんです。そういう人には、年間一〇人ぐらいは接しますかね。

------引用終了-------------------------------------

この文の章のタイトルが

"「菜食主義のうそ」にだまされるな"

というものだったのでまっ先にこの章から読み始めました。
というのも私も基本的にヴェジタリアンだからです。数年前に、

ジョン・ロビンズ『エコロジカル・ダイエット―生きのびるための食事法』 角川書店 1992
原題 [Diet For A New America,1987]

という名著を読んで以来、肉食の愚かしさに目を開かされ肉を控えるようになりました。(というより魚以外はほとんど食べません。)

それにしてもタイトルの「菜食主義」のうそにだまされるな、というのは少し言いすぎかなと感じました。
菜食主義といってもいろいろな種類があって、ここで述べられているのは、完全な菜食主義いわゆるヴィーガンのことです。

『ベジタリアンの健康学』、『ベジタリアンの医学』などの著者である蒲原聖可によると、ベジタリアンには以下のような分類があるそうです。

ヴィーガン (VEGAN):完全菜食主義
ラクト・ベジタリアン (LACTO VEGETARIAN): 乳製品は食べる
ラクト・オボ・ベジタリアン(Lacto-ovo-vegetarian):乳製品と卵もたべる
ペスコ・ベジタリアン(Pesco-vegetarian):乳製品・卵・魚もたべる

私は乳製品、卵はあまりたべないけど、魚はたまに食べるのでペスコ・ベジかなと思うのですが、蒲原氏も医学の立場から肉や乳製品を控えることは勧めていても引用文にあるようなヴィーガンは、リスクが高いので、気をつけなければいけないと述べています。

では著者の幕内氏はどのような食を勧めているのかということになりますが、基本は、マクロビオティックと似ているのですが、その土地でたくさんとれるものをその順序で摂る、ということらしいです。

だから日本でいえば、水、米、イモ、野菜の順で、それも季節の物を、なるべくまるごと全部食べるようにするということらしいです。

もう一つは、赤ちゃんにあげないようなものは控えるというのも一つの指針となるようです。たとえば、お酒とか緑茶、コーヒー、お菓子などです。

それでは肉はどうなるかというと、肉は食事全体の一割ぐらいだそうで、目安としては一日に一回、魚か卵を食べる程度でいいのではないかと述べています。そしてそれ以外の肉は、外食のときに食べる、それも体のためというよりは、心の楽しみのために食べる程度にとどめるのがいいと言っています。


こう考えると確かにシンプルだし、土地の旬のものを買うのだからお金がかからず、極めてリーズナブルです。

最近、物価が高くなった、大変だと騒がれていますが、私にはその実感があまりありません。というのも、肉は食べないし、パンなどの手間暇のかかった加工品などもほとんど食べず、前から野菜は地元でとれたものを買っているので、石油が高くなろうが、穀物が高くなって飼料が高騰しようが、ほとんど関係ないのです。(ついでに車も乗らないので石油が高騰しているという実感もない)

だからこういう風に物が高くなるということは、身の回りの無駄なエネルギーを使っているものを洗い出し、ものごとをシンプルにするという意味でとてもいい機会になるのではないかと私個人は考えています。

食肉などはほんとうにエネルギーの無駄です。
先に挙げた『エコロジカル・ダイエット』を読むとよくわかるのですが、食肉用に飼料として与えている穀物を人間が食べれば、地球全体で飢えで亡くなるひとがいなくなるぐらい豊富な量になるそうです。

ある計算によると、一人前の食肉は、8~10人ぐらいの食べる穀物に相当するそうで、肉食をするひとが減っていけば、農地も化学肥料や農薬を使って酷使する必要もなく、環境にもいいというわけです。


話が少しずれましたが、幕内氏のいわんとする食も実はヴェジタリアン、正確にいうとペスコ・ベジタリアンあたりになるのでしょうか。

(幕内氏はたいへんな勉強家で、西洋式の栄養学に疑問を感じ、自ら全国津々浦々を歩き回りその土地その土地の伝統食を自ら食し、あらゆる民間の食事療法を試した結果このような結論にいたったそうです。
またなぜある食事療法でよしとされているものが、他の説では否定されたりしているのかも明快に説明されていてとても参考になりました。ここら辺のことは書くと長くなるので興味のある方はぜひご一読下さい)

しかしあらゆる健康法もそうなのですが、どれが自分にあっているのかというのは結局のところ自分にしかわからないのです。

五木寛之さんが『養生の実技』という本の中で言っているのですが、たとえば、ある地方は今日は晴れですという予想であったとしても、自分の住む地域が大雨になるということもあるということ、つまり全体の傾向が必ずしも個にあてはまるとは限らないということなのです。

だから五木氏は結局のところ個人の感覚力を磨く、自分の身体語(身体が発していることば)を理解するように努めるということを述べていて、まったくその通りだと思います。

また五木氏は帯津氏との対談本『健康問答1、2』の中で、中道ということを述べていて、これは何かの中間を真っ直ぐに行くことや、和洋折衷のようなことを意味するのではなく、綱渡りでバランスをとるように、時に右にずれたり、左にずれたりしながら、自分にあったその真ん中あたりを進んでゆくということを述べていて、なるほどなと思いました。

つまるところ、何か権威のある説を鵜呑みにし、妄信するのではなく、直観を頼りにしながらも同時に理性も働かせて自分で確かめていくということなのだと思います。

先に引用したきんぴらごぼうのようになってしまった人たちというのも、ちょっと調子がわるくなったな、と感じた時点で少し軌道を修正したりすれば病院にいくほどにはならなかっただろうと思うのです。

これは宗教でも健康法、食事でもなんでもそうだと思います。自分が正しいのではないかと感じることを実践してみることは大事なことだと思うのですが、その時点ではあくまで「仮説」なのです。

それを正しいとして続けてみる、そしてそれが自分にあっていたのなら、生活の中に習慣として取り入れればよいし、あっていなかったらいつまでもしがみつかずに修正、あるいは破棄すればいいと思うのです。
だから今度は自分にとって良いものを人に紹介するときも、このことを十分に踏まえておく必要があると思います。

要は自己責任、自分で考え、自分で試し、自分で選択するのが基本であり、そのための材料として周りにある諸々の説を参考にさせてもらうということだと思います。

少し話がずれますが、先に挙げた『健康問答』の中で、整体の野口晴哉さんにかかわるあるエピソードが紹介されていました。

野口さんは貧しいひとたちに治療を施した時も、その人たちのメンツを考えて敢えて無料で治療することはせず、それなりの料金を頂いていたそうなのですが、

その弟子たちの代になると、貧しいひとたちからも必ず料金はとるようにしないといけないんだという感じになっていて、野口晴哉さんの奥さんが晩年、それは違うんだけどなぁ、ということを述べていたという趣旨の逸話でした。

教えを伝えていくというのは本当に難しいことだと思うのですが、このようなお弟子さんたちの態度というのも、自分の先生がそうしていたからそうなんだという一種の妄信であって、自分の理性を働かせていない、自分の中で咀嚼しきれていないという気がするのです。

おそらく多くの宗教やその他それに類する伝統というのも、創始者から二代目、三代目になるに従って、このような誤解、曲解がどんどん拡大していき、
同時に教えが硬直化して、とんでもない方向に行ってしまう可能性が大いにあると思うのです。

たとえば今世界中でイスラムのテロが横行していますが、あれなどもおそらく創始者ムハンマドの教えを誤解、拡大解釈してあのような極端な行動になっているのだと感じます。


健康法も、宗教も、科学も、その他権威のあるとされることに対しても、常に自分の理性を働かせ、自分で確かめるという態度が大切であり、違うと感じたら孤独であろうと別の道を歩んでゆく勇気が必要なのかなと思います。

話がすこし大きいところに行ってしまいましたが、
菜食に関してはまだ何かしら書くと思います。
今回はここら辺で。


参考:
なぜ「粗食」が体にいいのか:「食生活」ここだけはかえなさい!
帯津良一著 幕内秀夫著 三笠書房 2004

『エコロジカル・ダイエット―生きのびるための食事法』
ジョン・ロビンズ〔著〕 田村源二訳 角川書店 1992
原題[Diet For A New America,1987]

ベジタリアンの健康学-ダイエットからエコロジーまで-
蒲原聖可 丸善 1999

ベジタリアンの医学
蒲原聖可 平凡社 2005

養生の実技-つよいカラダでなく-
五木寛之 角川書店 2004

健康問答 本当のところはどうなのか? 本音で語る現代の「養生訓」
五木 寛之 帯津 良一 平凡社 2007

健康問答2 本当に効くのか、本当に治るのか? 本音で語る現代の「養生訓」
五木 寛之 帯津 良一 平凡社 2007

0 件のコメント: