2009年7月16日木曜日
『葉隠』 ~その他もろもろ
『葉隠』について何回か取り上げてきたので、その他面白かった記述を二つほど挙げておきます。
まずはコレ↓
一息を4秒とすると、七息というと28秒、約30秒のうちに結論を出せということですよね。
武士は一瞬の判断で生死を分かつことがあるから、普段から直感を大事にしていたのでしょう。
しかし今の教育では、「よく考えなさい」なんてことが言われますが、
30秒のうちに結論を出して行動せよ、というのは面白いなと思います。
そういう教育を受けてきたら、どのような人間に育つのだろうかと想像してしまいます。
案外「よく考えなさい」といわれて育てられた人より的確に行動出来るのかもしれません。
もう一つ、面白かったのがコレ↓
「武士は死ぬ事と見つけたり」なんて勇ましいことを言っていいる常朝さん、
実はぐーぐー寝るのが好きだったというのは、結構笑えました。
またこういう事を素直に書いているところも好感が持てます。
この「やりたいことをやれ」という思想は、前にも取り上げた、兼好の「つれづれ」の思想にも通じます。
道は違えど、それぞれの道を極めていくと、
今、ここを、楽しむ
というところに収斂していくのかなという気がします。
私は大学の授業で、宗教学者のカール・ベッカーさんの講義を受けた事が有るのですが、
彼が余談で話していた事に、「急がない」というのがありました。
ベッカーさんの友人が、生活のあらゆる面で「急がない」ことに注意しただけで、とてもゆったりとした穏やかな人間になったという話でした。
急ぐというのは、「いま、ここ」に満足が有るのではなく、
何かを達成した先に満足があるという心境に駆り立てられている状態です。
確かに急ぐ必要のある場合もあります。
しかし、基本を「急がない」という事にしてみると、今に心が定まって、いまここを楽しめるようになってくるように感じます。
逆に基本を「急ぐこと」にしていると、ろくなことが無いなというのが私の実感です。
私はDSの脳トレが好きで、結構いいタイムを出そうと張り切る事が有るのですが、
早くやろうとすると、かえってミスが多くなり、心も落ち着かない感じになります。
しかし丁寧に正確にやろう、という気持ちでやると、案外いいタイムが出たりするのです。
私の中では、
「急いでやる」= 「ろくなことが無い」
という黄金の方程式が成立したのであります。
先週のニュースで、JR尼崎の事故で社長が在宅起訴されたという報道がありましたが、あれも結局は「急ぐ」ことによって発生した事故でありました。
あのような重大事故をピラミッドの頂点であるとするなら、そのすそ野に重大事故になりそうだったけどならなかった、いわゆる「ヒヤリ、ハット」が何十件もあったはずで、
その「ヒヤリ、ハット」の時点で十分対策をとっておくべき事でした。
このようなことは「失敗学」として体系化されているのですが、
あそこで「急いでいた」のは、運転士だけでなく、また社長やJRという会社だけでもまなく、私たち一人一人が急がせた結果だと思います。
もしかすると、社会全体が「急ぐこと」によってどういうことが起こるかを象徴的に示してくれた事件ととらえべきなのかもしれません。
そして「急ぐ」というのはまた、数字に振り回されていると言う事でもあります。
何かの先に満足があるという生き方をしていると、それを達成した一瞬の点でしか満足を味わう事が出来ませんが、
今を楽しむ、過程を楽しむことができれば、線で満足を味わう事が出来ます。
我々には常に、「今」しか与えられていないわけだし、「急ぐ」のではなく、
やはりこの「今」を如何に楽しみ、味わうことができるか、というのが人生を楽しめるかどうかのカギになるのかなという気がします。
いつかはゴールに達するというような歩き方ではだめだ。
一歩一歩がゴールであり、一歩が一歩としての価値をもたなくてはならない。
エッケルマン『ゲーテとの対話』
参考:
黒鉄ヒロシ『マンガ日本の古典 26 葉隠』中央公論社 1995
和辻哲郎校訂 古川哲史校訂『葉隠 上・中・下(岩波文庫)』岩波書店 1982
エッケルマン『ゲーテとの対話』
畑村教授の失敗学に関する著作
カール・ベッカー氏の著作
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